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IT人材の需要は「IT企業」から「ものづくり中堅企業」へ

財務省・厚生労働省・日本銀行が公表する4つの政府統計を組み合わせ、いまIT人材を必要としている業種と企業規模を読み解きます。

公開 2026.09.25データ時点 2026年6月調査まで

この記事の結論

  1. IT投資(ソフトウェア投資)は、中堅・中小企業と機械・金属系の製造業で大きく伸びている。
  2. これらの業種は、従業員を増やせないまま求人を増やしている。
  3. 人手不足感はこの1年で急速に強まった。特に金属製品・生産用機械・電気機械の中堅・中小企業。
  4. 一方、IT企業(情報サービス業)の人手不足には緩和の兆しがある。
中小企業のソフトウェア投資2.1倍2019年→2025年
全産業の従業員数+0.2%同期間、投資は+46%
情報通信機械の新規求人+10.3%全産業は−4.5%
情報サービス業の雇用人員DI−41半年前は−53(不足が緩和)

出所:本文中の各統計より作成

「IT投資の拡大」と「人手不足」は、どこで起きているのか

「企業のIT投資が拡大している」「人手不足が深刻化している」。どちらもよく聞く話ですが、それがどの業種の、どの規模の企業で起きているのかまで具体的に語られることは多くありません。営業やマーケティングの現場で使えるのは、この「どこで」の情報です。

本記事では、財務省、厚生労働省、日本銀行が公表している4つのオープンデータを組み合わせて、「今、IT人材を必要としているのはどの業種・どの規模の企業か」を分析します。使うデータはどれも無料で、誰でも同じ分析を再現できます。

使ったデータ

  • 法人企業統計(財務省) 企業の売上、利益、設備投資、従業員数などを四半期ごとに集計した統計。「設備投資」から「ソフトウェアを除く設備投資」を引くと、ソフトウェア投資額が計算できる。
  • 一般職業紹介状況(厚生労働省) ハローワークの求人・求職の統計。職種別・産業別の求人数や求人倍率が分かる。
  • 短観 雇用人員判断DI(日本銀行) 約9,000社に人手が「過剰・適正・不足」のどれかを聞いた調査。「不足」と答えた企業の割合が高いほどマイナスになる。
  • 短観 年度計画(日本銀行) 企業が今年度どれだけソフトウェア投資をするつもりかの計画値。

FINDING 1IT投資は「中堅・中小」でこそ伸びている

全産業(金融・保険業を除く)のソフトウェア投資は、2025年に約7.0兆円でした。2010年の約3.2兆円から倍以上に増えています。

注目したいのは企業規模別の伸びです。コロナ前の2019年を100とすると、2025年は大企業が131、中堅企業が162、中小企業が209でした。投資額の大半は大企業ですが、伸び率では規模が小さい企業ほど大きくなっています。

図1資本金規模別 ソフトウェア投資の推移2019年=100、暦年合計
大企業(資本金10億円以上)中堅企業(1億〜10億円)中小企業(1千万〜1億円)
5010015020020152016201720182019202020212022202320242025209 中小企業162 中堅企業131 大企業
出所:財務省「法人企業統計調査」時系列データ(金融業、保険業以外の業種・原数値)より作成。ソフトウェア投資=設備投資(新設固定資産合計)−ソフトウェアを除く設備投資。中小企業区分は標本の入れ替えによる振れが大きい点に注意。

日銀短観の2026年度計画(6月調査)でも、ソフトウェア投資は全産業で前年度比+13.5%、中小企業は+20.1%と、この流れが続く見込みです。ただし6月時点の計画は年度途中で修正されるのが普通なので、あくまで計画値として見てください。

FINDING 2「投資は増えたのに、人は増えていない」業種がある

全産業について、2019年と直近1年(2025年7-9月期〜2026年4-6月期)を比べると、売上高は+12%、経常利益は+66%、ソフトウェア投資は+46%増えました。一方で従業員数は+0.2%とほぼ横ばい(製造業は−5.5%)で、従業員一人当たりの人件費は+11%上がっています。稼ぎも投資も増えているのに、人は増えていません。

これを業種別に分解したのが図2です。横軸が従業員数の増減、縦軸がソフトウェア投資の増減です。

図2業種別 ソフトウェア投資と従業員数の増減2019年と直近1年(2025年7-9月期〜2026年4-6月期)の比較。直近1年のソフトウェア投資が300億円以上の業種
投資は平均以上に増え、従業員は減った業種その他の業種
投資は平均以上に増加・従業員は減少−60%0%+60%+120%+180%+240%−30%−15%0%+15%+30%+45%全産業のソフトウェア投資 +46%従業員数の増減(2019年比)→ソフトウェア投資の増減(2019年比)→専門・技術サービスガス・水道リース業不動産業医療・福祉印刷卸売業小売業建設業情報通信業生活関連サービス派遣・職業紹介自動車電気機械飲食その他サービスその他運輸娯楽業広告業情報通信機械生産用機械金属製品
出所:財務省「法人企業統計調査」より作成。従業員数は各四半期末の平均。点にカーソルを合わせると売上高・経常利益の増減も表示されます。

左上の「投資は平均以上に増えたのに、従業員は減った」領域に、機械系の製造業が入っています。

  • 生産用機械 ソフトウェア投資+82%、従業員−11%、経常利益+59%
  • 情報通信機械 ソフトウェア投資+88%、従業員−15%、経常利益は約5倍
  • 自動車(領域のすぐ外) ソフトウェア投資+119%、従業員+5%、経常利益は約2倍

どの業種も利益を伸ばしていて、投資する余力はあります。それなのに、社内の人員は投資の伸びに追いついていません。

FINDING 3人員が減ったのは「減らした」のではなく「採れていない」

ただ、従業員が減った理由が合理化による意図的な削減なら、外部人材の需要にはつながりません。そこで、ハローワークの新規求人数を業種別に見ました。

図3産業別 新規求人数の前年比直近12か月(2025年8月〜2026年7月)の合計を前年同期と比較。パートタイムを含む一般
−15%−10%−5%0%+5%+10%+15%電子部品・デバイス+14.8%情報通信機械+10.3%業務用機械+3.2%電気機械+2.2%生産用機械+1.3%輸送用機械+0.7%金属製品+0.3%製造業計−1.0%全産業計−4.5%建設業−2.5%情報サービス業−10.1%卸売業−10.7%小売業−11.2%
出所:厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」第20表より作成。職種を問わない求人全体の数字で、IT職種に限った値ではない。

全体の求人が減る中で、機械・電子系の製造業は求人を増やしています。人を採ろうとしているのに、従業員数は増えていないわけです。

一方で卸売業は、従業員が減っているのに求人も大きく減らしています。こちらは意図的なスリム化の可能性が高く、同じ「人員減」でも意味がまったく違います。日銀短観の2026年度計画でも、卸売業だけがソフトウェア投資を前年度比−6.4%と減らす計画でした。

FINDING 4人手不足感は、この1年で急速に強まった

日銀短観の雇用人員判断DIで、企業自身の人手不足の感じ方を確認します。DIは「過剰」と答えた企業の割合から「不足」と答えた企業の割合を引いた値で、マイナスが大きいほど人手不足が広がっていることを表します。

出所:日本銀行「全国企業短期経済観測調査」雇用人員判断DI(最近、全規模、単純集計)。最も不足した値は2004年3月調査以降(生産用機械は2010年3月調査以降)。
業種1年前
2025年6月
最新
2026年6月
1年間の変化最も不足した値
全産業−35−37−2−38(2025年12月)
金属製品 過去最も不足−21−38−17−38(2026年6月)
生産用機械−18−28−10−37(2018年9月)
電気機械−12−20−8−22(2018年3月)
自動車−13−19−6−33(2018年12月)
業務用機械−27−270−29(2026年3月)
情報サービス 緩和−51−41+10−53(2025年12月)

全産業がほぼ横ばいの中で、機械・金属系だけが急速に悪化しています。金属製品は2004年以降で最も人が足りない状態です。規模別に見ると、生産用機械の中堅企業は−13から−26、中小企業は−17から−30と、1年でほぼ倍になりました。FINDING 1で見た「IT投資を伸ばしている中堅・中小」と重なります。

ただし、生産用機械や自動車は、2018年の設備投資ブームのときの方が今より人手不足でした。機械系の人手不足は景気の波で上下しやすいので、正確には「過去最悪」ではなく「ここ1年で急速に悪化」です。

図4業種別 雇用人員判断DIの推移「過剰」−「不足」(%ポイント)、全規模。マイナスほど人手不足
全産業情報サービス生産用機械電気機械
−60−40−200+20201520162017201820192020202120222023202420252026−20 電気機械−28 生産用機械−37 全産業−41 情報サービス
出所:日本銀行「全国企業短期経済観測調査」より作成。2020年6月調査前後の急上昇はコロナ禍による一時的な人手余り。

FINDING 5逆に、IT企業の人手不足は緩和の兆し

興味深いのは、情報サービス業(SIerやソフトウェア開発会社など)の動きです。2025年12月調査では−53と非常に強い人手不足でしたが、2026年6月調査では−41まで緩和しました。最新調査の内訳は「過剰」3%、「不足」44%で、人が足りないと答えるIT企業が、半数強から半数弱に減った計算です。ハローワークでも、情報サービス業の新規求人は前年比−10.1%でした。

つまり、IT企業では人手のひっ迫がピークを越えつつあり、ユーザー企業、特に機械・金属系の製造業で強まっているという、需要の移り変わりが見えてきます。

営業・マーケティングへの示唆

以上の分析から、IT人材やITサービスを企業に提供する側にとっては、次の3つの示唆が得られます。

ターゲットの優先順位を見直す

IT企業に加えて、機械・金属系製造業の中堅企業(資本金1億〜10億円)が有力なターゲットになります。「IT投資を増やしている」「求人を増やしている」「人手不足感が急に強まった」の3つが揃っているのがこの層です。

提案の切り口を変える

IT企業向けには「開発要員の不足」が主な課題になりますが、製造業の中堅企業では、そもそもIT部門の人員が限られている場合が多いと考えられます。「DXやシステム刷新の投資は決まったが、社内で推進する人がいない」という課題を想定した提案が有効になりそうです。

先回りする

短観の先行き見通しでは、生産用機械(−28→−34)や業務用機械(−27→−35)の人手不足はさらに強まる見込みです。企業が外部人材の確保に一斉に動き出す前に、関係を築いておくことが差につながります。

データの限界

今回の分析で言えないことも明記しておきます。

  • ソフトウェア投資に派遣費用は含まれない。法人企業統計のソフトウェア投資は資産として計上した分だけで、派遣やSESの費用は多くの場合経費になります。「IT投資が増えた業種はIT人材も必要としている」は仮説です。
  • 業種別の求人は、IT職種に限った数字ではない。機械系製造業が「求人全体を増やしている」までは言えますが、「IT人材の求人を増やしている」とまでは言えません。
  • ハローワークの数字は実態より低く出やすい。IT人材の採用は民間の転職サービス経由が中心です。実際、情報処理・通信技術者の有効求人倍率は直近12か月で1.39倍と、職業計(1.08倍)よりやや高い程度でしたが、企業の人手不足感はそれ以上に強く出ています。IT職種の求人数は3年前より+3.5%増えた一方、求職者数が+13.8%増えたことも倍率を押し下げています。
  • DIは「広がり」を測る指標で、「深さ」は測れない。1人足りない企業も100人足りない企業も、同じ「不足」1社として数えます。
  • 標本調査のぶれがある。法人企業統計の中小企業区分や、短観の情報サービス業(回答220社)は数字が動きやすい指標です。特に情報サービス業の緩和はほぼ直近1四半期での変化なので、10月初めに公表される9月調査で続くかを確認する必要があります。

マクロのデータは、それだけで答えを出してくれるものではありません。ただ、「なんとなく」で決めていた優先順位に根拠を持たせることはできます。次回は、今回見えた機械系製造業の中堅企業について、実際にIT投資を進めている企業の事例を調べる予定です。

データの出典と再現方法

法人企業統計
財務省「法人企業統計調査」時系列データ 表1 金融業、保険業以外の業種(原数値)。e-Statで調査項目・業種・規模・年期を絞り込みCSVで取得。
一般職業紹介状況
厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」第20表(産業別新規求人数)、第21表(職業別労働市場関係指標)。厚生労働省・e-Statで公表。
短観
日本銀行「全国企業短期経済観測調査」。時系列統計データ検索サイトのデータコード直接入力で取得。例:CO'TK99F1142608GCQ02000(単純集計・生産用機械・雇用人員・DI・四半期・最近・中堅企業)。
集計期間
法人企業統計の「直近1年」は2025年7-9月期〜2026年4-6月期の4四半期合計。ハローワークの「直近12か月」は2025年8月〜2026年7月。短観は2026年6月調査まで。